若様01

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 今日は、ようやく入学式だ。待ちに待ったとは言えない学園生活だがめいっぱい楽しもうと思う。不満はあるにはある。1年から生徒会になったことだ。1年で主席の者は生徒会役員か風紀委員になる権利が与えられるというものだ。普通は新2、3年だけで人気投票を行うため役職は埋まるのだが今年はなぜか埋まらなかった。というかルールを無視して俺に投票した生徒がかなりいたらしい。中学で風紀委員長をやっていただろうか。いや、今までは普通に人気投票みたいなノリで決まっていたな。ちなみに副風紀委員長の枠もあったのだが幼馴染に押し付けておいた。地味に中学時代の役職も影響力あるんだな。まあ、生徒会をやったからと言っても面倒事さえ起こらなければ問題ないんだが。

「まーしーろー!今日早いじゃん。なんかあったけ?」

 俺が桜並木の道を歩いているとアーサーにいきなり抱きつかれた。全く朝から元気な奴だ。それにしても、こいつは今日から風紀副委員長になるということわかってんのか?いや、押し付けたのは俺なんだがな。

「今日の入学式は、生徒会役員と風紀委員は早くに集合だろうが。覚えとけよ」
「そういや、そうだったね。ていうか、真白ちゃんつめたーい」
「アーサー、うざい。というかテンション高いな」
「いやー、真白が今日から生徒会役員に口説かれるって夜中考えてたら萌えて萌えて」

 こいつは、普段はわりと良い奴なんだがたまにおかしくなる。というか、素が腐男子でテンションが高いだけなんだが。…いや外でも割とテンションは高めか。だが、素だと本当に残念なイケメンってかんじだな。顔だけは割と整っているのにもったいない。童話とかの王子で出てきそうなルックスなのに。

「ちなみに、生徒会長は俺様らしいよー。いやー、妄想捗る捗る。ちなみに、オススメcpは俺様会長×強面紀委員長かな」
「心の底からどうでもいい」
「真白今日冷たくない?」

 今の話で会長の性格がわかったがこんな風に知りたくなかったな。せめてアーサーの萌えスイッチが入ってないときに聞きたかった。スイッチが入ってない時だったらたぶん割とまともな事が聞けただろう。絶対と言い切れないのが流石アーサーだ。

「やっと面倒な役職から開放されると思ったのに、またこれから生徒会だ。機嫌も悪くなる」
「そう言えばそうだよねー。でも、自分だけは嫌だからって俺に風紀副委員長を押し付けないでくれる?元風紀委員長さん」
「そう怒るなよ。元生徒会長さん」

 この学園は、持ち上がりのため中等部の風紀委員長と生徒会長は高等部でそれぞれの役員に空きがあった場合は1人推薦してもいいという精度がある。まあ、中等部から推薦を行った場合高等部の委員長の許可がいるんだがな。俺は、その権利を使ってアーサーを風紀委員副委員長に推薦したんだがそれが通った。ちなみに、俺がアーサーを推薦したのは確かに、アーサーの言うとおり俺だけ役員になるというのもあったが、それ以上に自分の仕事をしやすくするためだ。この学園では、生徒会と風紀の権力が拮抗しているためか、仲がとてつもなく悪いらしいからな。

「そういえば、お前も役員たちとある程度は面識があったよな?」
「あー、そういやそうだったね。でも、風紀委員長とはあるにはあるけどイメージ悪いかもなー」
「別に、大丈夫だと思うけどな。少なくとも、中学時代に生徒会長をやっていたからって差別するような奴じゃなかった」
「そういや、1年のころは南雲委員長の下でやってたんだもんな」
「そうそう。ま、頑張れ」

 話ながら歩いていると、入学式の会場の体育館の前についていた。生徒会と、風紀は体育館の中の集合場所は違ったはずだ。まったくうちの学校は無駄に広くてたまに嫌になる。

「それじゃあ、俺はこっちだから。じゃあな」
「じゃあねー」



 生徒会の集合場所についたが、まだ誰もいない。まあ、集合時間まであと15分もあるし大丈夫だろう。そう言えば、アーサーは生徒会のメンバーをある程度知っているっぽかったな。聞いとけばよかった。一応名前だけは知っているんだが流石に人柄やなんかは興味がなかったため知らない。

 することもなく退屈で風紀の集合場所の方をみると、もう全員揃っているのかもう、準備をはじめていた。さすがだな。さて、こちらはいつになったら全員集まるんだかな。

「おや、貴方が1番でしたか。霧隠さん」 
「俺のこと覚えてくださっていたんですね。氷室先輩」

 俺の次に来たのは氷室先輩だった。この人はいつも作り笑いをしているのだが、目がいつも笑っていないため、正直怖い。いつでも作り笑いができるというのは尊敬しているが、正直苦手だ。

「いつも、議会で遠慮のない発言をしていたので覚えました。それに、風紀委員長なのに小柄でしたから」
「発言に、ついては申し訳ないと思っています。身長については気にしているんですよ」
「それはすみませんでした」

 氷室先輩はさして申し訳なく思っていない調子で謝った。身長は正直かなり気にしている。俺が将来組長になった時身長が原因で舐められたりなんかしたら、面倒だからな。それにしても言葉に棘があるな俺この人になにかしたっけか。…結構思い当たる節があるな。この話題を続けていてもいい事ないから話題を変えるかな。

「そういえば、氷室先輩の役職なんなんですか?」
「副会長ですよ。そういう霧隠は、会計ですか?」
「はい。空きが会計だったらしくて強制的に」

 氷室先輩は今回も副会長らしい。氷室先輩は中学時代も副会長だったが、その時俺は風紀委員長だったためか、敵視されていた。恐らく、下級生なのに生意気に意見していたからだろう。それだけにしては態度が冷たい気がしなくもない。今回は、上手く付き合っていける事を願っておこう。

「それにしても他の人達は遅いですね」
「まあ、まだ集合時間前なのでいいじゃないですか」
「しかし、風紀委員はそろって準備をしていますし。後で文句を言われても面倒ですし」
「ああ。それは面倒ですね」

 委員長は、そういうことをいうタイプではないし、副委員長はアーサーだがら大丈夫だろうが折り合いが悪いらしいし平の委員が面倒臭そうだ。たしかに、早めに来てほしいな。

「「あー!2人とももう来てるんだー!」」

 氷室先輩と話していると、正人先輩と正也先輩が駆け寄ってた。2人はそういうことをするようなタイプじゃあないと思っていたがなんだかんだやるらしい。うちの学校の生徒会は人気投票で半強制的に決まる。一応、拒否しても良いというふうになってはいるのだが、名門青山学園で生徒会役員に選ばれるというのは一種のステータスになるため拒否する人はほとんどいないらしい。

「こんにちは。正人先輩、正也先輩」
「霧隠も生徒会なんだー」
「俺はまた、風紀委員になるかと思ってたー」
「「いがーい!」」

 2人は、一応見分けがつくが同時に話されたり、交互に話されると流石に混乱する。2人とも、それをみて楽しんでいる節があるから質が悪い。

「おや、3人とも面識があったんですね」
「襲われそうになった時助けてもらったことが何度かあるんだー」
「そうそう。そう言えば前は木刀を持ち歩いてたよねー」
「風紀だったころ木刀はいろいろと役立ちましたから」

 風紀の仕事は、強姦を止めたり喧嘩の仲裁をする。その時に、わりと力ずくで止めるため、武器があると役だつ。一応他にも、スタンガンと催涙スプレーを持ってはいるが使うことはない。なにより、木刀は使い慣れている得物に似ているからな。

「そう言えば、中学の頃は木刀を持ち歩いていましたね。今考えるとかなり物騒ですよね」
「たしかにそうですけど、やはり便利なんですよ。間合いもそこそこありますし、力がない俺でもそこそこのダメージを与えられますし。生徒会に入ったので、持ち歩く予定はありませんけど」

 力がないというのは嘘だがそれ以外は本当だ。生徒会になってからはもう木刀を持ち運ぶ機会がないことを願っている。そんなことをしていると、後ろから声がしたと思い振り返ると背の高い男が立っていた。畜生、身長分けろやこの野郎。

「ぜん…いん…そろって…る?」
「いいえ、会長がまだ来ていません」

 この男は話すのが苦手なのか、言葉が片言だ。それにしても、こいつはデカイのに威圧感がないな。珍しい。

「おまえ…だれ?」
「初めまして。生徒会会計に任命されました、霧隠 真白です」
「おれ、は…しずやま…しょう…や。かいけ…い。よろ…しく」
「こちらこそよろしくお願いします、静山先輩。」

 静山先輩の、言葉は聞き取りにくいが聞き取れない程ではないし、なにより、思っていることがすぐに顔に出ているから扱いやすそうだ。なんか、大型犬みたいだ。

「きりがくれ…はおれの…いって…ること…わかるの…か?」
「聞き取りやすいと言ったら嘘になりますが、普通に聞き取れますよ」
「そう…か。あり…がと」

「「ちなみに、僕は書記/庶務だよー」」

「それにしても会長は遅いですね」

 氷室先輩のイライラとした、声を聞き腕時計を見ると集合時間の5分前だった。まあ、集合時間前ではあるが会長以外が揃っているからイライラするのはわかる。だが、こんなことでイライラすると器が小さいと思われる。

「わりい、遅れた」
「まったくですよ」
「まだ、じか…んまえ」

 現れたのは、黒髪の青年だった。副会長と、静山先輩の口ぶりからして生徒会長だろう。それにしても、なんでうちの学校は新入生の生徒会役員とだけ顔合わせをしないんだか。わりと、不便だ。

「まったく、氷室はうるせえな」
「私は風紀に嫌味を言われるなんて御免ですよ」

 そういえば、俺が風紀委員長だったころは氷室先輩に嫌味を言ったことがあったな。アーサーを馬鹿にした態度が原因だったが。

 会長は、俺に気がついたのか俺に視線を移した。

「お前は、新しい会計か?」
「はい。新しく生徒会会計に任命されました。霧隠 真白です」
「俺は、生徒会長の高峰 千晶だ。」

 高峰先輩は、少しだけ面倒そうに自己紹介をした。たしかに面倒だが、態度には出さないで欲しい。こっちが少しイラッとする。

「さて、打ち合わせをはじめますよ」

 この打ち合わせも、春休み中にしたかった。というか、当日に打ち合わせとか、無茶だろうが。学園は、馬鹿なのか?



 あれから、打ち合わせをしてなんとか様になった。本当によかった。そう言えば、新入生代表の言葉を言わないといけないんだった。即席で考えるか。





「続いて、新入生代表の言葉です。霧隠 真白さん、お願いします」

「キャー!霧隠様だー!」
「抱いてー!」
 叫ぶのはいいが、叫ぶ内容を考えろ!それにしても、顔を隠しているのになんで、こんなに騒がれるんだかわからない。

「あたたかな日差しのなか・・・」




「続いて、生徒会からのお話です」

 司会がそう言った途端、生徒たちがざわめき出した。それだけで、生徒会がこの学園にとって、どんなものかわかるだろう。それにしても、この学園の生徒会はアイドルみたいだな。

「静かにしろ」

 高峰先輩はマイクを持つなり、一言そういった。それほど、大きな声でもなければ、怒気をはらんでいるというわけでもないのに体育館は静まり返った。高峰先輩は、それが出来るだけの魅力というか、カリスマ性があるように俺は感じた。

「今年度から、生徒会長になった2年Sクラスの高峰 千晶だ。俺に迷惑をかけるなよ」

 あー、うん。なんと言うか、簡潔だな。関係のない事まで長ったらしく話されるのは嫌いだが、ここまで簡潔だと逆に戸惑うな。というか、俺に迷惑をかけるなって明らかに関係ないことに思えなくもないが。

「まったく、会長は。生徒会の事とまったく関係ないじゃありませんか」

 氷室先輩は、そう呟くとマイクを受け取り、今後の生徒会の方針などを話していく。中学時代に、副会長をやっていたからか手慣れた様子だ。その様子は、会長とは正反対と言っても過言ではないが、氷室先輩にも高峰先輩とは違う魅力がある。

「しず、やま、しょう、や。さん、ねん、えすくらす、かい、けい。ことし、も、よろ、しく」

 静山先輩は、マイクをもつと、たどたどしく話す。その姿は、緊張しているのか少し怯えている様にみえる。しかし、だからこそ応援したくなるような気持ちになる。

「つぎ、きり、がくれ、のばん」
「ああ、ありがとうございます」

 静山先輩から、マイクを受け取り一歩前に出る。この内容なら特に問題ないだろう。というかもう、考えるのが面倒臭い。

「おはようございます。この度生徒会会計に任命されました、 1年Sクラス 霧隠真白です。まだまだ、未熟ですので生徒会の皆様の足を引っ張らないよう努力をします」

 これでいいだろう。適当で。最初は真面目に考えようとしていたが、高峰先輩の話し?をきいてどうでも良くなった。それにあまり長くなっては聞いている方も退屈だろう。さて、さっさとマイクを次の正人先輩に渡してしまおう。

「正人先輩、どうぞ」
「ありがとー」


 それからなんの問題もなく終わった。南雲先輩は、相変わらず見た目は不良だったが、真面目だった。矛盾している気がするがきのせいだ。それにしても相変わらず、風紀は見た目だけだとチンピラみたいなやつ多いな。実際元チンピラが多いんだが。

 さて、入学式も平和に済んだことだし、これからも平和に過ごしたい。というか、面倒事が起こらなければそれでいい。俺はわざわざ面倒ごとに首を突っ込む酔狂なやつではないからな。



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