若様02

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「それで、委員長が厳しいんだよー」
「そんなに厳しいか?」

「あの、すいません、少しよろしいですか?」

 昼休みにアーサーと屋上で話していると声をかけられた。声をかけたのは、ネクタイの色からして、2年だろう。たしか、名前は三浦 利緒。中学の時に襲われそうになっていたところを助けたことがあったはずだ。

「アーサー、呼ばれてんぞ」
「いやいや、多分俺じゃないから。2年の先輩で仲いい人は風紀以外いないから。多分、真白の親衛隊のことじゃないか?まだ結成されてないんでしょ?そしてさりげなく俺に風紀関係でしか仲の良い先輩がいないことを暴露させないでよ」

 そういえば、この学校には親衛隊なんていうふざけた組織があった。ファンクラブのようなものだが、親衛対象に近づきすぎたものを制裁したりすることもある。ちなみに、風紀は親衛隊を持ってはいけないという校則があるため、俺は無縁だった。それと別にアーサーの交友関係を聞き出そうとはしていなかった。

「そうなんです。霧隠様に許可を貰おうと思って」
「ほら、やっぱり」

 本当に俺の親衛隊の結成についてだった。どうしようか。正直親衛隊は面倒臭いが、それぞれが勝手に動かれるよりは組織として統率がとれているほうが扱い易い。そういうことを考えると作った方がいいんだよな。色んな方面の抑圧にもなるし。なによりこの人は悪い人に見えない。

「親衛隊ですか?俺は構いません」
「本当ですか!?ありがとうございます。すみませんが、こちらにサインをお願いします」

 三浦先輩から、書類を受け取る。とりあえず目を通すと、一つだけおかしいところに気がついた。隊長の欄が三浦先輩ではなく、土御門 爽大と書かれており、三浦先輩は副隊長と書かれているのだ。

「あの、隊長の欄に土御門先輩と書かれているんですが、何かあったんですか?」
「ああ、ここに来る途中先生に捕まったんですよ。まったく、お人好ししも考えものです」

 その時、屋上に繋がる扉が開く音が聞こえた。焦っている様子からして土御門先輩だろう。そんなに焦らなくても時間はあるのにな。

「悪い、遅れた!」
「本当だよ!もう、お人好しも程々にしてよね!」
「困ってそうだったからついほっとけなくてな」

 うん、見た目というか、雰囲気通りの人だな。というか、今時こういう人は珍しいな。なんというか、一緒にいるとなんとなく安心する雰囲気を持っている。

「あ、これサインしておきましたよ」

 三浦先輩と土御門先輩が話している間にサインをしておいた書類を土御門先輩に渡す。これで、風紀委員長か、副委員長の許可があれば親衛隊結成だ。この場に副会長であるアーサーがいる

「ありがとうございます。これ、隊員の名簿です」

 名簿は、ファイルに綴じられており、1人1枚にまとめられており、顔写真、クラス、学年、志望動機、土御門先輩と三浦先輩の考察が書かれている。これは、作るのに時間かかっただろうな。それにしても丁寧に作ってある。

「わざわざ丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、親衛隊が迷惑をかけてはいけないと僕たちは考えているので」
「風紀としてもありがたいかな」

そういえば風紀のころは全体の一部とはいえ制裁という馬鹿げた行為をする輩がいるからそこらへんが物凄く面倒だったな。たまに親衛対象の命令で暴力行為を行っていることがあってそういう時は処罰を決めるのがめちゃくちゃ面倒だった。

「霧隠様の親衛隊メンバーは霧隠様に助けてもらったという生徒が9割なのでそこまで心配しなくても大丈夫だとは思いますが」
「そうなんだ。それなら安心」
「残りの1割はどういう動機か聞いても?」
「あー、あとは俺みたいに支えたいって人たちかな。なんか危なっかしさがあるから」
「俺って危なっかしいですか?」

 一応普段から色々と気を付けてあまり隙を見せないようにしているつもりだったんだが。何か特定の原因があるなら直すようにしよう。

「普通よりもしっかりしてるんだけど無理しそうって感じかな」
「うん、真白はそんな感じだね」
「無理してないつもりですが…」

「結構いるんだね。全部で何人いるの?」
「全部で43人です」
「思ったより多いですね」

 もっと少ないかと思っていたが、意外と多いな。30人くらいかと思っていた。たしか、アーサーが会長だった時は90人くらいいたんだったか。ちなみに親衛隊を作るのにも少しだけ条件がある、対象が風紀に属していないことと親衛隊に入っていないことだ。だからたまに親衛隊を作られたくないという理由で親衛隊に入っている生徒がいる。

「それでも生徒会の親衛隊だと最小だけど。はい、書類良かったら受け取ろうか?」
「お願いします」

「なあなあ、名前でよんでもいいか?」
「ちょっと、いきなりなのに失礼だよ!」
「別に構いませんよ」
「いいんですか?ありがとうございます!」

 ちなみに、俺はそこそこ仲がいい相手には名前で呼んでもらいたい。そのほうが家柄とか関係なく見くれている気がするからだ。逆に嫌いな相手には絶対に名前で呼んで欲しくない。

「初対面の相手に真白が名前呼びを許すなんてめずらしいな」
「んー、なんとなくな。それに、自分の親衛隊隊長と副隊長だと話す機会も結構あるだろ?」
「それもそうだね」

 たしかにアーサーの言うとおり、俺が初対面の相手に名前呼びを許すことは珍しい。というかアーサーは、生まれた時からいるから別だがそれ以外だと初めてかもしれない。

「あの、僕達のことも名前で呼んでくださいませんか?」
「構いませんよ」

 親衛隊隊長と副隊長なら、名前で呼んでいても他の隊員から嫉妬されたり面倒なこともおこらないだろうから問題ないだろう。

「真白敬語もやめればいいのにな」
「さすがに、先輩相手にそれは不味いだろう。というか、お前も敬語を使え」
「えー、面倒臭い」
「面倒臭がるな」

 俺とアーサーがしばらく言い合っていると、呆れ顔の理緒先輩に止められた。後でアーサーには地味な悪戯をしておこう。ちなみに、爽大先輩は微笑ましげに眺めているだけだった。

「まあまあ、真白様も敬語はやめてくださって良いですよ。そのほうが親しくなれた気がして嬉しいですし」
「そうですかね?」
「真白ちゃんは色々考えすぎなくていいの」
「あんたは色々考えたほうがいいの!」
「そこまで言わなくてもいいだろ!?」

 この2人はよく言い合うな。だが、犬猿の仲というわけではなくどちらかというと喧嘩するほど仲が良いというものだろう。俺とアーサーも喧嘩をしないわけではないが、少ないタイプだがらなんとなくしんせんだな。

「先輩達がいうなら敬語をやめるか」
「やっぱり真白ちゃんはその口調だよねー。正直敬語は似合わな「アーサー?」
「ごめんなさい」

 まったく、アーサーの中で俺のイメージはどうなっているんだ。一応目上の相手には敬語を使っているから聞き慣れていないというわけではないんだが。あとで、アーサーに聞いてみるか。

「ああ、わかっていると思うが制裁はするなよ?」
「もちろんしませんよ。さっきも言った通りウチの親衛隊は真白様に制裁から助けてもらったという子も多くて、辛さもわかっているので。しても厳重注意程度ですよ」

 理緒先輩に理解があってよかった。正直、自分の親衛隊の行動に目を光らせるのは正直しんどいし、南雲先輩に迷惑をかけたりしたくないからな。アーサーにも迷惑がかかるし。

「さてと、利緒そろそろ行くぞ」
「えー、もうちょっと真白様と一緒に居たいー」
「他の隊員が待ってるぞ?」
「よし、すぐ行こう!では、真白様失礼します!」

 理緒先輩は小さいのに爽大先輩を引っ張って、屋上を出て行った。なんか、嵐みたいな人達だったな。でもなんだか楽しかった。

「アーサー」
「ん?なに?」
「俺は、そんなに敬語が似合わないか?」
「んー、なんというか堂々と話しているのに慣れてるからか似合わないというか違和感がすごいんだよなー」

 そう言われて見れば、アーサーの前では組関係の仕事をしていることが結構あるから敬語は思ったよりも使っている割り合いは低いのかもしれない。だが、さっきも思ったとおり0ではないんだが。

「俺はどちらかというとお前の敬語の方が違和感あるけどな」
「ひどいなー。でも、確かに俺は敬語をほとんど使わないからね」

「そう言えば、アーサーの親衛隊だったやつはどうなってんだ?」
「他の親衛隊に入ったり、特に入ってなかったりらしいよ。真白ちゃんの親衛隊になったこもそこそこいるみたい。やっぱ俺と真白は一緒にいる時間が長いから?」
「そうじゃないか?さて俺達もそろそろ教室に行くか」
「そうだね」



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