若様06

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 今日はいよいよ会議の日だ。ようやくあの転入生関係の対策を練られそうだ。とは言っても、いい策が思う浮かぶとも考えにくいが…。まあ、会議とは別に南雲先輩や花宮先輩と話せるというのはうれしいことだ。全く必要がないことだが、いい息抜きにはなるはずだ。そうすれば仕事の効率も上がる。さて、そろそろ視聴覚室に向かうか。

「あっぶな」

 俺が自室の扉を開けるとアーサーが立っていた。後少しでも前に出ていたら、俺が扉を開けた時に当たっていただろう。こういうところで運がいいというかなんというか。

「んじゃ、行くか」
「ねえ、確かに一緒に行こうとしてるんだけどその前に何かリアクションしてよ。大丈夫くらい聞いて欲しい」
「当たらなかったんだから別にいいだろ」
「そうなんだけどさー」

 軽口を叩きながら視聴覚室に向かう。あー、やっぱりアーサーと話してると気が楽だな。気を遣わずに話せる相手はやっぱり大事だな。

「そう言えば、南雲先輩は最近どうだ?」
「機嫌悪いよ。ほとんど転入生関係。真白とか会長とかの事も含めて。俺だって機嫌よくないし」

 この話題を出した途端アーサーと声のトーンが下がった。別に疑っていたわけじゃないが、真宮先生の言ってたことは本当の事のようだ。

「まあ、今回の会議は転入生の対策についてだな。というか、転入生の情報交換か」
「あー、真白調べてたねー。どう?いい情報あった?」
「アンチ王道が本当に存在するということがわかった」
「うげ…。二次元ならいいけどリアルでいるとキツイものがある。いやー、アンチ王道の主人公くんたちは大変だ」
「やっぱり驚かないか」
「いやー、生徒会メンバーの様子見ててあれ?なんか読んだことのある光景だな。って何度思ったことか!せめてもの救いは真白ちゃんが主人公ポジじゃなかったことだけどね!仕事は物凄いことになっちゃってるけど被害はそれ以外出てないっぽいし。まあ、それでも許せないことに変わりはないけど!」

 アーサーが一気にまくしたてる。正直うるさい。あとテンションが高いせいでうるさい。

「アーサーうざい」

 そういって、軽くアーサーのわき腹を小突く。本当なら頭を叩きたいところだが、やりにくいから今回はわき腹で勘弁しておこう。本当縮んだらいいのに。はぁ…日本の高1男子の平均身長は168cmくらいだからアーサーはデカいんだよ。…俺が平均よりも小さいというのもあるが、それだけではない。絶対に認めたくない。

「ひどいっ!これでも真白の事心配してるのにー」
「あー、はいはい。そして縮め」
「いや、なんで?」
「頭を叩きにくい」
「俺としてはそっちの方がありがたい。見た目のわりに威力あるし」

 一応手加減はしてるんだけどな。あと、位置の関係でやっぱり威力が落ちる。それに外だとあんまりやらないしな。特に意識はしてないんだがほとんどわき腹を小突くだけにしている気がする。特に考えてやっているわけではないんだが謎だ。

「そう言えば今回の会議のメンバーに花宮先輩いたよね。仲よかったっけ?」
「面識がある程度だな。でも、信用が出来る人だとは思う」

 花宮先輩は中学時代同じ風紀委員だったから面識もあるし、人柄も大体は把握している積だ。なんだかんだ仕事はきちんとやってくれる人だったしな。…たまにトラブルを持ち込む人ではあったが。

「花宮先輩がちょっと不憫…」
「なんでだ?」
「わかってないならいいよ」


「ましろー鍵開けて」
「はいはい」

 アーサーに促されて視聴覚室の鍵を開ける。中には当然だが誰も居ず、静まり返っている。人が使ったのは結構前のようだが、ほこりが積もっておらず清潔感にあふれているところはさすが金持ち学校だ。

「視聴覚室なんて久しぶりに来たよ。ここでアニメ見たらいい感じだろうなー」
「絶対に使用許可下りないだろうけどな」
「最高の画質、音質でみたいじゃん」
「高校の設備にここまでのものが置いてあるのはどうかと思うがな」
「そこはさすが青山学園っていうことで」


「開けるぞー」

 ドアの開く音につられて顔を向けるとそこには開けると言いつつ、視聴覚室の中に入っている花宮先輩の姿だった。

「花宮先輩言う前に入ってる」
「ノックしたところで防音しっかりしすぎてて聞こえないでしょうが」
「もしも、お取込み中だったらどうしたんですかー」
「霧隠とお前が、なんて天地がひっくり帰ってもないだろー?」
「そうですけどねー」
「霧隠は?」
「そうしなければ死ぬと言われてもないです」

 俺がそう言えば花宮先輩は面白そうにケラケラと笑う。思えば、俺とアーサーの関係は昔から周りによく誤解されていたが花宮先輩はまったくそう言うことがないどころかそれで弄ってくる珍しい人だった。

「霧隠は相変わらずだな」
「花宮先輩も相変わらずですね」
「ちなみに真白ちゃんは花宮先輩の事を面識がある程度って言ってました」
「えっ…?」

 アーサーがそう言った途端花宮先輩が固まった。そして、時間にすると3秒程度固まった後俺の両肩に手を置き、唇を震わせながら尋ねた。

「確かに付き合いがめちゃくちゃ長いいってわけでもないけどそれなりに話したし、俺はそこそこ親しいんじゃないかと思ってたんだけど自意識過剰だった?」
「え、あの…」
「言い辛いなら無理に言わなくていいから!」

 視線でアーサーに助けを求めると、楽し気に笑っているのが見えた。たまに妙な方向で人を焚きつけるのはやめてほしい。というか、いい加減止めに入れ。

 そう考えているのが伝わったのか、苦笑しながらアーサーは口を開いた。

「真白は人の感情を読み取るのは得意だけど、自分に向けられる感情には鈍い、というよりも興味がない。だからそれが好意、たとえ悪意であっても真白が気付くことは少ないんです。周りに迷惑がかかる場合はすぐに気づくけど。だから、花宮先輩に限ったことじゃないですよー」
「フォローになってるんだがなってないんだか…。とりあえずは納得した」
「俺そこまでか?」
「そこまで!」

 アーサーの言葉に口を開けば即答された。あっているから否定できない部分あるが、別にそこまで鈍いというわけではない。それに、少なくとも今まで困ったことがあるわけでもないし。だが、これをいうと更に色々と言われそうだし、言うのは止めておこう。

「そう言えば、花宮先輩珍しく来るの早いですね」
「珍しくねー」
「珍しくは余計だと思うなぁ。理由を言うなら霧隠と話をしたかったから?」
「実際珍しいじゃないですか」

 花宮先輩はいつも何か時間や、期限が決められている事には遅れはしないがギリギリだった。今日の会議も集合時間直前に来ると思っていたんだが、その予想は外れた。

「否定はしない。と言うか、出来ないけどさあ」
「それじゃもっと余裕を持って行動してくださいよ」
「次からねー」

このやり取りは今まで何度もやってはいるんだが全く改善はされていない。ということは多分改善する気がないんだろう。そういえば、それでも毎回言っていたらアーサーから、母親みたいだと言われたこともある。花宮先輩もそれを聞いて笑っていた。

「霧隠と話がしたかったって言われてるのにそこをスルーする辺りはさすが真白だね」
「よくそんな台詞言えるな、程度にしか思わなかった」
「もうちょっと心に留めて欲しかったな」
「先輩の性格的に他の人たちにも言ってるんでしょう?」
「確かに言ってそう」
「確かに言ってるけど、全部に誠意を込めてるもん」

 アーサーと2人で頷いていると花宮先輩は口を尖らせてそういった。

「先輩が「もん」とか言っても違和感しかないです」
「かわいい系のこがやると様になるけど正直似合ってない。むしろ気持ち悪い」
「お前ら辛辣だね!特にアーサー」
「つい本音が出ちゃいましたー」
「なおさら悪い」



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