若様03

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 HRも終わり生徒会室に向かおうとしていたら真宮先生に捕まった。恐らく書類でも渡されるのだろう。真宮先生は偶に書類などをギリギリに渡してくるから困りものだ。

「おい霧隠、これもたのむわ」
「はい。わかりました」

 真宮先生に渡された書類を見るとなんと今日来る転入生についてだった。色々と言いたいことがあるが、文句を言っている暇はない。急いで生徒会室に向かわなければならない。
 俺は生徒会室に向うために足を進めたが直ぐに一旦立ち止まって振り返る。

「真宮先生、終わったら覚悟しておいてください」

 アーサーがいたら語尾にハートが付いていると言われるような口調で言い放つ。髪に隠れて笑っていない瞳は見えず、口元に浮かべている笑みだけが真宮先生には不気味に見えていることだろう。

「お、おう」

 真宮先生のひきった顔と冷や汗は気にせずに生徒会室に向う。ああ、これは絶対氷室先輩に文句を言われるな。まったく、俺のせいじゃないのに。

「あれ?真白、そんなに焦ってどうしたの?」
「真宮先生が転入生の書類を渡すの忘れてたんだ。それじゃ、俺急いでるから」

 生徒会室に向う途中でアーサーに引き止められた。本当なら愚痴りたいところだがそんな暇すらないため早々に会話を一方的に切り上げて生徒会室に向う。後で絶対に愚痴を聞いてもらおう。




 無駄に豪華な生徒会室の扉を勢いよく開ける。高峰先輩の驚いた顔が見えるがそんなことを気にしている暇はない。なぜかというと転入生を迎えに行く時間が刻一刻と迫っているからだ。

「会長、これ転入生の書類です」
「お、おう」

 高峰先輩に書類を渡して自分の仕事に取り掛かる。さっきは急いでいて気づかなかったがまだ俺と高峰先輩と氷室先輩しか来ていないらしい。通りで静かだと思った。

「って、おい!この転入生が来るの今日じゃねえか!しかももうすぐ!」
「霧隠まさか貴方書類を渡し忘れたなんていいませんよね?」
「まさか。真宮先生が忘れていたんですよ。文句ならそちらにどうぞ」

 氷室先輩の冷ややかな声のせいで生徒会室内の気温が下がったが気にせずに元凶が誰かを教える。俺のせいだと勘違いされたままじゃ溜まったもんじゃないからな。

「おい、霧隠転入生を迎えに行って来い」
「お断りさせていただきます」
「おい!」

 高峰先輩のツッコミをスルーする。純粋に自分が面倒臭いというのもあるが、それよりも他の人が行ったほうが印象がいいだろうという考えもある。顔を隠した相手が案内人とか考えてみれば怪しすぎるだろう。

「俺よりも副会長が適任だと思いますがいかがですか?」

 副会長だったら(パット見は)笑顔で愛想がいいし適任だろう。あとたぶん生徒会メンバーでなんだかんだしっかりしてるからこの学園の独特のルールも叩き込んでくれるだろう。生徒会室に向かいながら書類を見た時転入生が1年Sクラスだったのは覚えている。

「仕方ありませんね。それでは、行ってきます」
「おう、行って来い」

「「あれ?副会長どっかいくの?」」

正人先輩と正也先輩が後ろに立っていて純粋に驚いてしまった。いきなり後ろに立たないで欲しい。さすがに、驚くから。というか、反射で殴りそうになったじゃないか。

「ええ。転入生を迎えに行ってきます」
「「いってらっしゃーい」」

「とこ…ろで、てんにゅ…うせい…どんなひ…と?」

 なんなんだ。3人連続で生徒会室にひっそり入ってくんなよ。驚くじゃねえかよ。なんで普段は無駄に存在感あるくせにこういう時だけは発揮されないんだ。それとも俺の気が緩んでしまっているのか。

「んー、顔は霧隠並にいまいちわかんねえぞ」

 高峰先輩の持っていた顔写真を見ると顔はボサボサな黒髪と今時売ってんのかっていうくらい厚いメガネでほとんどわからなかった。というか、この髪たぶんヅラだな。メガネは見ただけじゃわかんないが、恐らくは伊達だろう。なんというか、前アーサーが話していたアンチ王道っぽい気がしないでもないが気のせいだということにしておこう。

「ほんとだわかんないねー」
「この子は抱いてって頼まれてもむりかなー」
「正人先輩ってタチだったんですか!?」
「ツッコ、むとこ、そ、こ?」

 なんというか、アーサーに言ったら「なにそれ萌える!」とか言いながら悶えそうだな。うん、あとで、アーサーに言って見るか。面白い反応が見れそうだな。それに集中して俺のネタが無くなったら万々歳だな。

「ちなみに俺もタチだよー」
「俺も」
「おれ…も」

 おい待て、なんでこんな話になってんだ。誰だよ、この流れにしたの!あ、俺だな。なんで、ノリツッコミしてんだろう・・・。流れ的に俺にも来るよな。

「霧隠はどっちなの?」

 やっぱり、来るよな。と言うか本気でどっちなんだ?女相手はあるが、男相手は経験ないんだよな。

「うーん、どっちですかね?」
「両方いけるのか?」
「もう、なんでもいいです・・・」

 なんか、下ネタにいったからそろそろ軌道修正をしよう。さっきまでは普通に話していたのにすぐそれるんだから思春期の男というものはある意味すごい。

「そろそろ仕事をしましょうよ。副会長が戻ってきたらおこられますよ?」
「私がなんですか?」

 タイミング悪いな本当に。俺が何をしたっていうんだ、神様!いや、神様を信じていないけどさ。でも、本当に運がないな。

「「おかえりー」」
「転入生どうだったー?」
「見た目通り暗そうなこだったー?」
「そんなことありませんよ。太陽は名前通り太陽のようでした。太陽は渡しませんよ?」
「えー、あんなんなのに?」

 正人先輩の言うとおり、青空は見た目で人を魅了するようなタイプじゃあない。となると、氷室先輩の作り笑顔を見破りでもしたか。なんにしろ面倒なことになりそうだな。

「貴方達もあってみればあんなんなどと言えなくなりますよ」
「んー、副会長がそう言うなら夕食の時にでも見に行こうかな?」
「おれ、も」
「俺も見に行くか」
「俺は遠慮しておきます」

 面倒臭いことが起こりそうなのに誰が進んで首をツッコむか!絶対に避けてやる。俺は心の底から面倒後に巻き込まれたくないんだよ。

「お前もこい」
「遠慮しておきます」
「会長命令だ」

 畜生。そこまで言われたら逆らえないじゃないか。だって、上に従うのは常識だしな!ああ、でもできることなら断りたい。あ、そうだ確か風紀に回す書類あったよな。それを渡しに行きながら逃げよう。

「そう言えば、風紀に回す書類がありましたよね!渡して起きます!なので夕食に遅れるかもしれません」

 そう言い切ると急いで書類を手に取り、生徒会室を後にした。高峰先輩の静止の声なんて聞こえてこない聞こえてこない。



「あっ、真白なんの用?」
「委員長に書類を渡しに来たんだよ」

 風紀委員室を開けると真っ先に出てきたアーサーに軽い受け答えをするとその後は目的の南雲先輩探す。しかし、俺が見つけるよりも早く南雲先輩に声をかけられた。

「お、霧隠なんのようだ?」
「風紀に回す書類があったので持ってきました」

 南雲先輩は俺の頭をぽんとたたき、書類を受け取っていった。この人はいつもこうするよな。癖なんだろうか。

「んで、アーサー何悶てんだ」
「やっぱり萌えるわー!やっぱりいいcpだわー」
「うざい。そう言えば、正人先輩と正也先輩タチらしいな」
「すごく良い情報だけど、なんでいきなり?」
「全力で話を変えたいだけだ」

 本当になんでこの話をアーサーに振ってんだ。わりと謎だな。それにしてもだんだんこいつ自分の趣味を隠さなくなってきている気がしてきているんだがいいのか?

「お前ら戯れてないで夕飯行けよ。仕事も終わってるしよ」
「「はーい」」

 俺が風紀委員室を出ようとするとドアの前でアーサーに抱きすくめられて止められた。

「委員長も一緒に行きましょうよー」
「行ってもいいが、なんでそんな体制なんだ。霧隠は気にしろよ」
「幼馴染ですし」
「幼馴染でも普通はそこまでされたら嫌がるだろ」

 そう言われてみればアーサーはスキンシップが激しいな。そもそも、日本人じゃないというのもあるが、イギリスの中でもスキンシップ激しかったしな。というか、仲が良いのがアーサーぐらいしかいないから普通の距離感がわからないんだが。

「まあまあ、お互い気にしてないんだからいいじゃないですかー」
「お前らは気にしないかもしれねえが、周りが気にすんだよ。変な噂たてられねえようにしろよ」
「それこそ今更ですよー」

 そう言えばイギリスにいた時にアーサーのセフレだとか付き合っているという噂が流れて面倒なことになったことがあったな。小学生なのに早熟だと感心してアーサーも呆れられたり、アーサーの親衛隊の過激派に制裁されそうになって殴り倒した事もあったな。

「早く行くか」
「はーい」

 南雲先輩に促されて3人で最近あった他愛ないことを話したりしながら食堂に向かった。



 食堂につくと、何故か人だかりが出来ていた。生徒会メンバーがほとんど来ているときはいつも人だかりが出来てはいたが、今回は妙だ。いつもなら黄色い歓声が飛び交っているのに、今は空気が凍りついてしまっている。生徒会メンバーは転入生を観に来ているはずだが恐らく転入生に何かしたか、転入生がなにかしたのだろう。

「何があったのか?」
「あー、恐らく生徒会メンバーが転入生になにかやらかしたんだと思います。転入生を観に行くって言ってましたから」
「一体何をやらかしたんだ…」
「ご迷惑をお掛けしてすみません・・・」
「お前が謝ることじゃないからいい」
「そーそー」

 その時人だかりから人が出てきた。目を凝らして見てみるとそれは高峰先輩だった。機嫌が悪いのか生徒に道を開けられている。独特の雰囲気があるからしかたないか。

「会長何があったんだ?」
「どうしたもねえよ。なんなんだよアイツは!」

 高峰先輩は感情が昂ぶっていてまったく説明になっていない。高峰先輩がこうなっているということは転入生はかなりアレな性格だったんだろう。関わりたくないな。

「苛ついているのはわかりますが委員長に当たらないでください」
「…。悪かった。だが、アイツは最悪だ。精神年齢3歳なんじゃねえか!?」

 高峰先輩が話していると人だかりの中から何やら大きな喚き声のような声が聞こえてきた。確かに高峰先輩が苛つくのもわからないでもない気がする。

「千晶!どうして行っちゃうんだよ!人の話は最後まで聞かなきゃだめなんだぞ!」

 転入生がなにやら喚いているが、高峰先輩は無視するようだ。正直それが正解な気がする。

「お前はどこに行ってたんだよ」
「行ったとおり風紀に書類を渡しに行っていました。ところで副会長たちはどうしたんですか?」
「転入生を気に入ったみたいで、言うことを聞きゃしねえ」

 なんつうか、アンチ王道みたいな展開だな。まさか自分が体験しそうになるとは思わなかった。割と本気で嫌だな。

 高峰先輩と話していると手首を思いっきり掴まれた。意外と痛いな。これ。

「なんで俺が千晶と話しているのに横入りするんだよ!」
「横入りはしていない。それよりもどうして会長は先輩なのにタメ口なんだ?」
「別に友達なんだからいいだろ!?」
「友達だからといっても先輩は先輩だ。立場を弁えろ」

 そんなことを転入生に言ったらさらに力を込められた。これ明日には痕になりそうだな。どうやって隠そうか。適当に包帯でも巻いておけばいいか。

「そもそも友達じゃねえよ」

 高峰先輩の声は無視して転入生と話をする。なんというか、コイツムカつくな。

「わかった!俺と友達になりたいんだな!俺は青空 太陽!お前は!?」
「・・・。霧隠だ」

 本当なら苗字も呼ばせたくないが、仕方なく苗字を教える。コイツに常識というものはないのだろうか。いや、ないな。あったら手首を強い力でつかんだりしないな。

「名前はなんていうんだよ!教えてくれたっていいんだろう!?友達なんだから!」
「俺とお前はいつ友人になった?仮に、仮にだが友人だとしたら手首を強い力で掴んだりしないと思うんだが?」

 転入生は俺の言葉に言い返せないのか口をパクパクとさせたあと手首を放し、振り上げた。

「なんでこんなこというんだよ!」

 転入生が俺に手を振り下ろすよりも前にアーサーがうでを掴んで止めた。転入生が顔を真っ赤にして暴れているがアーサーが力を緩めることはない。

「真白に、俺の相棒に、何しようとしてんだ?手首だって変色してるしこんなことしてただですむとおもってねえよな?」

 不味いな。かなりアーサーが切れている。瞳孔も開ききっているし、すぐに止めないと不味い。

「アーサー止めろ。こんなことしてもお前が面倒な事になるだけだ」
「風紀副委員長のお前が問題をおこそうとすんな」
「・・・すみません。我を失っていました」

 アーサーは、そう言うと転入生のうでを離して俺に後から抱きついた。

「真白ありがと。俺止められなかったら多分殴ってた」
「別に気にしていない。相棒が暴走しそうになったら止めるもんだろ」

「真白もアーサーも俺を仲間ハズレにするなよ!」
「「仲間じゃねえよ」」

 なんなんだコイツは本当にあったら即友達か?それに、なに馴れ馴れしく名前で呼んでんだよ。最初は高峰先輩と話している俺が気に入らなかったはずなのに。

「とりあえず夕飯食うか」
「はい」
「おう。そうするか」

 高峰先輩に促されて適当な席を探す。

「お前は副会長たちのところに戻ったらどうだ?待ってるだろ?」
「そうだった!じゃあな!」

 やっと転入生が去っていった。これでやっとゆっくり出来る。が、その前にアーサーを引き剥がさなければ。動きにくい。コイツは昔っからなんだがなにかあるとしばらく俺から離れなくなる。

「アーサー離れろ。動きにくい」
「やだ」
「アーサー」
「うー。わかった」

 アーサーが渋々抱きしめるのをやめてから適当な席に座り、タッチパネルでオムライスを注文する。さっさと食べて部屋に戻りたい。今日はさっさと部屋に帰って寝たい。

 しばらくして注文したものがきた。アーサーと高峰先輩は焼き鮭定食で、南雲先輩はカツ丼だ。

「あー、まったくあの転入生はなんなんだ?」
「委員長が珍しくおとなしいと思ってたがずっとそれを考えてたのか?」
「んー、調べてみます」

 情報網を使えばなんとかなるだろう。1週間くらいはかかるだろうがな。

「いつも思うんだがお前の家ってなんなんだよ」
「世の中には知ってはいけないこともあるんですよ」
「そう言えば中学の時に副会長に探られてたよね。結局どうなったの?」
「さあ?どうなったと思う?」
「あー、うん。大体わかった」

 深くまで探られると面倒だから氷室先輩にわからないように抹消したはずだ。それにしてもなんで俺の家について探ろうとしたんだ?家を潰そうとでも考えていたのか?

「本当にどんな家なんだ・・・」

 高峰先輩にそんなことを呟かれた。いや、ウチの組は有名だから通じると思うが色々と厄介なんだよ。結構怨みも買ってるから周りの生徒に被害が出ても大変だし、ここは良いとこのお坊ちゃん達もかなりいるため後始末が非常にややこしいことになる。

「それじゃ、俺達は部屋に戻ります」
「え?俺も?」
「話したいことがあんだよ」

 そう言って先輩たちと別れ、アーサーの手を引き俺の部屋に向かう。このての話はアーサーが1番通じるだろうしな。1番信用できる相手だしな。



「で、話って何?」
「大した話じゃないんだがな。これから迷惑かけるだろうからな」
「なんで?」
「アンチ王道展開になりそうだから」
「あーそっか。無理だけはしないでね」



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