若様04

  1. HOME >
  2. 若様04
 あの日以来、高峰先輩と俺を除く生徒会役員が仕事をしなくなった。理由は転入生から片時も離れたくないかららしい。まったく馬鹿馬鹿しい。

 本当ならサクッとリコールをしたいところだが生憎会長はあいつらがいつか戻ってくると考えているらしい。俺も鬼ではないし、高峰先輩があいつらが戻ってくるという考えは幻想だったと思うまでは仕事を真面目にやって、南雲先輩にバレないようにしようと思う。本当ならアーサーにもバレないようにしたいところだが、あいにく迷惑をかけるだろうと言ってしまっているためダメだ。思いっきり面倒ごとに首を突っ込んでしまっているが今考えるのはやめておこう。

 そんなことを考えながら俺は今日も生徒会室で仕事をする。せめてもの救いは、うちの生徒会役員の中では権力が、会長>副会長>会計>書記>庶務となっていることだ。おかげで書記と庶務の書類は俺の代理印で済む。



 しばらく仕事をしていたら生徒会室の扉が開いた。時間的に高峰先輩が来たのだろう。手を休めずに、顔を上げると予想通りそこには高峰先輩が立っていた。

「こんにちは、会長。書類のまとめはほとんど終わっているのでサインをお願いします」
「おう、助かった。だから、お前は休め」
「はい?」

 会長の言葉に思わず聞き返してしまった。たしかに、疲れていないと言ったら嘘になるが髪で隈は隠れているはずなのにどうしてそんなことを言われるのだろうか。そんなことを考えていると、高峰先輩は呆れ顔で机の上を指差した。

「お前なあ、机の上に眠気覚ましやら栄養ドリンクの空き瓶が大量に転がっていたら疲れているのがまるわかりだぞ」

 高峰先輩の言葉にハッとして机の上を見ると大量の空き瓶が転がっていた。…たしかに、これじゃああからさまに疲れを誤魔化しているように見える。なんとか言い訳をして仕事を続けなければ。

「確かに、疲れていないと言ったら嘘にはなりますけどまだ仕事が残って入るので」
「お前のことだから、今日明日の締め切りの書類があったら1番最初に言うだろ」
「たしかにそうですけど……」

 高峰先輩の言うとおり、今日明日の仕事があったら真っ先にいっていただろう。だが、高峰先輩にだけ仕事をさせるのは申し訳ない。それにすでにある書類はすぐに片づけてしまいたいんだ。どうせまたすぐに追加されてしまうしな。

「なら、休め。会長命令だ」
「ですが、会長にだけ仕事をさせるのは申し訳ないですし・・・」
「俺が言いつってんだから良いんだよ。それに、他の奴らなんて仕事を全くしてねえんだから」
「ですけど…」
「とにかく休め!」

 高峰先輩はそう言うと俺の手を引っ張り無理やり立たせ、生徒会室の隣にある仮眠室に連れていく。生徒会は行事前は仕事が大量にあるためこういうところは優遇されている。

「高峰先輩!?」
「うるせえ」

 高峰先輩は、俺をベッドに無理やり寝かしつけ、バサりと布団をかけた。これで寝ろということなんだろうか。

「お前はここで寝てろ」
「…はい」

 高峰先輩は、ビシリと指を指し言い放った。仕方がない、今回は高峰先輩に甘えさせて貰って眠ろう。寝っ転がったことで今まで耐えていた眠気が限界だ…



〜高峰視点〜


「お前が寝るまで見てるからな……ってもう寝てるじゃねえか」

 まったくコイツは、どれだけ仕事をしていたんだ。そんなに無理をしなくても俺もやるってのに。しかもコイツは弱音を吐かねえから面倒なんだ。俺も空き瓶がなかったらまったく気が付かなかっただろう。

「それにしてもコイツはどんな顔をしてんだ?」

 ふとした好奇心で、霧隠の顔をのぞき込む。髪で隠れていてほとんど隠れているが、形の良い唇が見えた?

「あ?」

 見間違いだと思いもう一度見るが、変わらない。霧隠が熟睡しているのを確認して、髪を顔からそっとどかす。

「マジか……」

 髪をどかして見えたのは、まるで精巧な人形の用に見える霧隠の顔だ。瞳は目をつぶっているから見えないが、透き通るような肌の色と銀と言うよりも、白に近い髪色からして赤目だろうか。

「つーか、なんでコイツは髪で顔を隠してんだ?」

 霧隠の顔は、整いすぎて男にも女にも見える。だが整っていることに変わりはないからモテルだろう。隠そうとしている理由はなにか特別な理由でもあるか、人と関わりたくないかのどちらかだろう。いや、コイツの言動からして前者だろう。コイツは明らかに家柄を隠そうとしているし。

 それに、顔を隠したいのなら転入生のように眼鏡をかけた方がいいんじゃねーか?髪だけならふとした拍子に見えてしまうだろう。変なところで大雑把なのか、コイツは。

 つーか、コイツが起きている時に素顔を見てみてえな。反応も気になるしな。よし、仕事をこっちに持ってくっかな。


〜真白視点〜


「ん……?」

 目を覚ますと、見慣れない天井があった。………ああそうだ。高峰先輩に無理やり連れてこられたんだ。それにしても、よく寝たな。

「どのくらい寝てたんだ?」

 時計を見ようとするが、髪が邪魔でよく見えない。仕方なく、髪を耳にかけて時計を見る。

「よお、霧隠起きたか?」
「はい?」

 は?なんで高峰先輩がここにいるんだ?生徒会室で仕事をしていたはずじゃないのか?

「起きたみたいだな。つーか、なんでお前は顔を隠してんだよ」

 高峰先輩はそう言って、俺の顔を覗き込んだ。特に、瞳をよく見ているようだ。たしかに、オッドアイは珍しいからな。それにしても、どう言いくるめようか……。

「隠しているのは、目立ちたくないからですよ。この瞳は目立つでしょう?」
「いや、今でも充分目立っていると思うけどな」
「たしかにそうですけど……」

 たしかに、今でもわりと目立っている。目立つ事は好きではないが、それ以上に顔を見られて霧隠真白=黒揚羽組若頭と認識されるのがまずい。アーサーは、自国から出てきているから気にしていないようだが、俺はそうはいかない。

「まあ、深くは聞かねえよ。何か理由があるみてえだしな」
「そうしていただけると嬉しいです」

 思ったよりも、高峰先輩は大人しく引き下がってくれた。聞かれたら、無理矢理でも引き下がらせるつもりではいたが、色々と申しわけないしな。

「さて、仕事の続きをしましょうか」
「おう」

 俺と高峰先輩は生徒会室に向かう。もちろん髪で顔を隠して置いた。



「失礼しまーす」

  しばらく何事もなく高峰先輩と仕事をしていると、アーサーが扉を開けて入って来た。返事くらい待てよ。

「この書類よろしくお願いしまーす。というか、今いるの会長と真白だけ?」

 アーサーはそう言うと、書類は適当に机の上に置き、生徒会室を見回した。どうせアーサーの事だから俺と高峰先輩以外が仕事を放棄している事に気がついているだろう。前もって言ってあったとはいえそうでなければ今日も生徒会室にわざわざ来なかっただろう。

「ああ、今は丁度出払っていてな。誰かに用があったのか?」
「いいえ、そういうわけではないですよ。ただ、今生徒会は2人でギリギリ回してるんじゃないかなーって思っただけです」

 ああ、やっぱりバレている。さて、高峰先輩はどうやってごまかすんだろうか。プライドの高い人だから、下手に誤魔化しはしないと思うが。

「ああ。確かに今生徒会は俺と霧隠で回している状態だ。だが、何故気がついた?期限に遅れた書類などなかったはずだ」
「そりゃあ、サインですよ。書類が会長か真白の代理印で済ませてあるものが全てです。転入生が来てから、副会長や書記などのサインを見ていませんから。まあ、見逃している人もかなりいますけどねー。まあ、1番大きな理由は真白の様子ですかねー」
「俺はとくに変わった事はしていないはずだが」
「なーに言ってるかな?栄養ドリンクを大量に買ったり、寮に戻らなくなったり授業にほとんど出なくなったのはどこの誰かなー?」

 そう言われて見ればそうだ。最近は忙しくて寮の自室に戻ったり授業に出たりする事が極端に減っていた。更に、忙しくてまともにアーサーとも話せていなかった。もしかしたら心配をかけたのかもしれないな。

「それはまあ、仕方なかったんだ」
「真白がさ、無茶しやすいのはわかってるけど、あんまり心配はさせないでねー」

 アーサーはそう言うと、俺の後ろに回って抱きしめてきた。こっちの感覚からすれば、抱きしめられているというよりものしかかられてるといった方が近い。

「はいはい」
「絶対治す気ないでしょ?」

 その時、生徒会室のドアを勢いよく叩かれた。こんな時に一体誰だよ。

「だれもいないのか?開けるからな!」

 この声は転入生か、と言うか誰も居なかったら鍵がかかってるだろうが。言いたい事は色々とあるが転入生は勢いよく扉を開け、入ってきた。

 アーサーは転入生が見えると抱きしめる力を強めた。恐らく本人は無自覚何だろうが、俺を守ろうとしているのだろう。別に俺は弱くはないし、アーサーと俺だったら俺の方が強い。だが、いつも俺を無意識に守ろうとする。ただ、たまに心配になる。コイツは俺の為だと自分を犠牲さえもしてしまいそうで。

「面倒なヤツが来やがったな」

 高峰先輩はぼそっと呟いた。俺も同意だ。いや、転入生1人なだけまだましなのか。副会長やなんかの取り巻きがいたら更にややこしい事になっていただろう。

「お前らちゃんと仕事をしろよ!」
「「「は?」」」

 俺達3人は見事にハモった。と言うか転入生は俺達に仕事をしていないと言っているが、仕事をサボっているところを見たのだろうか。しかも高峰先輩は会長だ。彼が仕事をしていなかったら書類が滞るだろう。コイツは馬鹿なのだろうか。いや、馬鹿だったな。

「お前さあ、真白と会長が仕事をしてないって言うけどサボってるとこ見たの?会長が仕事をしていなかったら代理印がないから仕事が滞って風紀に情報まわってくるんだけど?真白は会長と副会長の書類以外全部真白の代理印だしね。これを聞いても2人が仕事をしていないっていうの?」

 見事にアーサーが代弁してくれた。というか、これアーサーが気づいてるって事は南雲先輩にもバレているだろう。次顔を合わせたらたぶんリコールについて言われるだろう。なんとかされないようにするか。

「でも、皆は2人が仕事をしていないって言ってたぞ!仕事をしていないのに生徒会室に居座られて困ってるって!!」
「お前さあ、誰かに言われたら全部信じるの?皆が言ってるからって真実だとは限らないし」
「友達は信じないといけないんだぞ!」

 アーサー絶対にストレス溜まってるな。いつもならここまでストレートに言わない。あと、俺をずっと抱きしめているしな。いい加減開放して欲しいんだが。

 視線を高峰先輩に移すとポカンとしていた。確かにアーサーは普段は人に説教をしたりしないからな。どちらかと言えばヘラヘラとしているイメージが強いからな。実際そうなんだが。

「でも、友達が間違ったことをしていたら言ってあげるのが優しさじゃないの?」
「アイツらは嘘なんてついてない!!大体お前はなんで生徒会室にいるんだよ!部外者は入っちゃダメなんだぞ!」
「俺は風紀委員の仕事で来てるからいいの。お前は用事ないでしょ。話し聞くから風紀室まで来てね」

 そう言えば生徒会室は部外者立ち入り禁止だったな。勝手に入ってきたことのインパクトが強くてすっかり忘れていたが。

「なんでだよ!!」
「はいはい、暴れない暴れない」

 アーサーは転入生を半ば引きずって、生徒会室を後にした。転入生を風紀室に連れていくのか。なかなか懸命な判断だ。風紀の人達に迷惑がかからなければいいが……



BACK